*当院の取組が静岡県健康福祉部より【平成30年度まるごと健康づくり推進事業】として選定されました
*当院は厚生労働省指定の「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」です
歯があって「かむ」力があるということは、体も心も健やかな状態を生み出し、生活の質の向上にもつながります。一病息災という言葉のように、歯や口腔内に多少の心配があっても、適切な歯科治療や歯科検診を受けている方は、体をいたわるからこそ、食事や運動(家事や散歩を含み体を動かすこと)などにも気を配るようになり、総合的に健康寿命を延ばすことができるのではないかと考えられています。
そこで、多田歯科医院では、かむ力や飲み込む力が低下した状態を示す口腔虚弱(オーラルフレイル)の予防を目的として、歯科医師や歯科衛生士による歯科治療や歯科検診と共に、管理栄養士や栄養士による栄養相談を実施しています。この歯科栄養相談は、当院で歯科治療や歯科検診をお受けになっている皆様方と、管理栄養士や栄養士がお話しをしながら食品の上手な食べ方をご提案する場です。相談では、皆様方ご自身が、日常のお食事をよりおいしく、楽しく、快適にするために、お食事の何をどのようにしたいかについて共に考え、その問題が少しでも改善されることを目指しています。
当院で配布しているレシピ集は、その一助となればとの思いで作成いたしました。ご自身で食材を選び、料理を考え、調理できる。そのようなことのお役に立てれば幸いです。正しくかみ、しっかり飲み込むことができる体づくりは、将来の皆様方お一人おひとりを支える大きな力になるでしょう。
文責 管理栄養士 高塚
① 智歯抜歯やインプラントなどの小手術前後の食事指導
② 義歯・補綴を装着しない間(治療中)の食事相談
③ 義歯・補綴を入れた後の食事相談
④ 歯肉・歯の健康を守る食事に興味を持つ方への相談
⑤ オーラルフレイル(むせる・飲み込みづらい等)の初期兆候がみられる方
⑥ 歯周病予防(歯肉によい食事)
いずれも当院の栄養士・管理栄養士による個別相談です。お気軽にご相談ください。
私たちが食べ物を食べる行為、食事は生命維持に欠かせません。食事は、口で摂取することが健康を維持するためにとても必要です。歯(口腔)の働きは、単に食べ物を噛み砕く器官というだけでなく、全身の健康に深く関わっていますので、健康づくりには、歯の数を保つことも必要です。
そのために、生まれ持った歯でも入れ歯でも歯を維持し、噛み合わせを合わせることが大切です。そうした状態を維持することで噛む力や飲み込む力を保つことが可能になり、その状態が、全身的な筋力の維持や様々な疾病予防にまで役立つことが明らかにされています。
また歯及び口腔の健康を保つことは、食事や会話を楽しむなど豊かな人生を送るための基礎となります。
近年、齲歯の治療や歯周病予防が、咀嚼機能の改善だけでなく、摂食機能全体の改善、そして、栄養状態の改善に深く関わることが示されています。口腔と全身の健康の関係を調査した研究(1)では、歯の喪失が少なく、よく噛めている人は生活の質及び活動能力が高く、運動、視聴覚機能に優れていることが明らかにされ、歯の健康は、日本の健康づくり政策(健康日本21(第二次))の目標とされています。
一方、歯を失う原因は、歯周病にもあります。歯周病は、歯を失うだけでなく、糖尿病、心臓疾患などの重大な病気の原因にもなることが明らかにされ、その対策として、近年では、市町村が実施する歯周病検診や、介護保険における経口維持加算、経口移行加算などが実施されています。
このように、歯と口腔の健康と食生活には密接な関係があるのですが、従来の歯科医院では、歯科医師と歯科衛生士、栄養士・管理栄養士が連携して歯の治療やケアと食生活支援を同時に提供するという機会はあまり多くありませんでした。
これらの背景を踏まえ、平成28年度の診療報酬改定に伴い、「かかりつけ歯科医療機能強化型歯科診療所」制度(か強診)が設けられました。この制度により、これからは、歯科医院で食支援が受けやすくなりました。定期的に歯科治療や歯科検診を受けながら、早期にその時期のライフステージに適した食生活を理解したり、個々の状況に応じた食生活アドバイスを受ける機会を得ることができます。それにより、将来の重大な病が予防できれば、その分医療費の出費を抑えることも期待できます。
例えば、咀嚼障害がある場合、摂取エネルギーやたんぱく質が不足し、また、各種栄養素の摂取が低下しやすくなります。このような状態を低栄養といい、低栄養は、虚弱(体重減少、疲労感、日常生活活動量の減少、身体能力(歩行速度)の減衰、筋力(握力)の低下)のうち、3項目が当てはまる状態と定義されています (3)。
筋肉量の減少、筋力低下(握力など)、身体機能の低下(歩行速度など)を示す用語としてサルコペニアという用語が提唱されています。低栄養の状態は、サルコペニアに繋がり、食欲低下をもたらし、さらなる栄養不良状態を促進させるというフレイルティ・サイクル(図1)が構築されてしまいます(フレイルティとは、虚弱の意味)。欧米の報告では、過栄養、特に肥満も虚弱に関連していることが報告されています。
そこで、当院では、栄養の視点を取り入れた歯科治療の一環として、口腔内の治療、衛生指導と平行して、咀嚼機能に応じた食事の形態の選択や栄養相談ができる歯科栄養相談を実施しています。栄養士が咀嚼能力のテストや、体重や身長からのBMI判定などを行い、食事を噛みにくい、飲み込みにくいなどの自覚症状が現れる口腔虚弱(オーラルフレイル)の兆候をチェック(4)できます。歯科治療と合わせた食事相談によって、口腔虜弱の予防、改善を目指すことができます。
また、歯周病など歯科治療中の食生活でお悩みの方にも、歯科医師による治療と歯科衛生士のケアに合わせ、栄養士や管理栄養士による個別の食生活アドバイスを行います。
この他、成長発育に伴う口腔機能の発達を踏まえた子どもを対象とした食事相談・食育活動や、様々なライフステージ(年代)ごとの食生活の特色や個々の状況を考慮した食生活相談にもご要望に応じて対応いたします。日頃の食生活の悩みや疑問など、食に関することなら何でも栄養士に気軽に相談できるサロン(談話室)のような場です。
人口の高齢化、寿命の延長が生じている現代では、要介護状態になることなくできるだけ自立した生活を目指すという健康寿命の認識が高まっています。将来の身体機能の維持、健康づくりのために、本医院の歯科治療と口腔ケア、栄養相談をお役立てください。
文献
(1)口腔保健と全身的な健康状態の関係に関する研究 (平成8年)厚生科学研究
(2)健康日本21 (第2次) 厚生労働省
(3)日本人の食事摂取基準 (2015年版) 厚生労働省
(4)老年歯学 第33巻 第3号 2018